【寄稿】ヒイラギモクセイ

10月から11月にかけて、キンモクセイ(金木犀)の香りにふとたたずむことがある。10月の終わりに、その香りに誘われて周囲を見渡したところ、キンモクセイではなく、ヒイラギモクセイ(柊木犀)が香りの源であった【Website 表紙写真】。ヒイラギモクセイは、モクセイ科の常緑樹で、ギンモクセイ(銀木犀)とヒイラギの交雑種であり、日本では雄株が中心であるため自生はないとされる。樹高1.5m前後で、下枝が枯れにくく、管理もしやすいため、防犯も兼ねて住宅やマンションの垣根に用いられることが多いようである。葉の大きさはキンモクセイ程度だが、ヒイラギのように縁にはトゲがあるのが特徴。ヒイラギモクセイは、“魔除けの縁起樹”とも言われる。

このヒイラギモクセイの香りの成分や薬理作用などについて、北光会員の野村正幸博士(秋田大学大学院鉱山学研究科機能物質工学専攻分子化学工学講座(大学院博士後期課程)平成14年度修了)に尋ねた。以下の記述は、野村博士による。

キンモクセイよりは弱いとされるヒイラギモクセイの香りの成分は、キンモクセイと同じ化学構造をもつと思われる。文献[*] によれば、主精油成分は、α-Thujone(ツジョン:下図に化学構造を示す)であるが、キンモクセイの特徴的な匂いの源は、ツジョンが還元(脱酸素)して6員環が5員環になった単環性飽和炭化水素モノテルペンC10H20:1,2-dimethyl-3-isopropylcyclopentaneとされる。一方、キンモクセイの薬理作用には、精油成分による“芳香性健胃作用”、矯味・矯臭作用(味や匂いをよくする)などがある。民間ではオスマン(サス)香水、ヘチマ水への混入、花の果実酒などに利用されている。なお、日本の「桂」はカツラ科であるが、中国で「桂」といえばモクセイ科を指す。植物学者の牧野富太郎の説によると、キンモクセイの日本移入は比較的新しいとされるがこれには異説も唱えられている。

*“キンモクセイ花の成分研究 (第1~3報)”:薬学雑誌,75, (7), pp.781-785 (1955);77, (6), pp.566-567;77, (6), pp.681-682 (1957)

(FS53 中田真一)

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